自分の不動産投資経験と税理士として関わったクライアントの状況を踏まえて、不動産投資初心者のためのマニュアルを作成しようと思いました。
不動産業に携わるようになって約15年が経ち、自分以外の税務クライアントの事例もたくさん見てきているので、かなり実務的なマニュアルになると思います。
今回は、第7回目で個人の不動産投資家の記帳(仕訳)の効率化について説明していきます。
有料で行っている税務相談の内容を文書化したので、かなり長い記事になっていますが、都度読んで頂き、実践できるところを取り入れて頂けると記帳(仕訳)がかなり楽になります。
自分で効率的に記帳(仕訳)をするために
投資用不動産から売り上げる収益がある程度の規模になるまでは、不動産投資家自身で記帳(仕訳)を行い、所得税の確定申告をすることもできます。
ただし、やよいの青色申告などの会計ソフトを購入して、いきなり記帳(仕訳)をするのは、待ってください。
いくら規模が小さくても自分だけで記帳(仕訳)をするのは、かなり手間がかかります。
記帳(仕訳)を効率化するために、「最初に」以下の7つの交通整理をしていく必要があります。
- 不動産投資専用の通帳の作成
- 通帳の数を最小限にする
- 小口現金制度の採用
- 会計システムの使い方
- クレジットカード・デビットカードの使い方
- 領収書の整理の仕方
- 記帳をするタイミング
なお、この後の内容は不動産投資を始めたばかりの人向けに書いていきますが、すでに事業を開始している人は翌事業年度(翌年度の1月1日)から交通整理を実施するか考えてください(期の途中から変更すると混乱が生じるため)。
不動産投資専用の通帳の作成
会社と違い個人事業主として不動産投資を行う場合は、金融機関で専用の通帳を作成する必要はありません。
多くの不動産投資家が最初から所有している通帳をプライベートと不動産事業用で共有しながら利用しています。
記帳(仕訳)業務を行う場合、事業関連性がある取引に対する通帳の入出金の項目を一つずつ仕訳の形にしていきます。
この時に、プライベートの入出金が混在していると事業用の入出金との判別に時間がかかり、結果記帳業務に費やす時間が増えます。
よって、記帳(仕訳)の効率化の観点からは、不動産投資専用の通帳を作成することをお勧めします。
ちなみに、どれ位効率化が計られるを確認するために、事業用とプライベートが混在している通帳をお持ちのクライアントにお願いして、不動産投資専用の通帳を分けてもらってところ、税理士事務所のスタッフの記帳時間が平均で15%~20%位短くなりました。
サンプル件数が1税理士事務所の事例で少ないのと、不動産投資家ご本人が記帳をしている訳ではないので、どれ位効率化できるかは、ケースバイケースでしょうが、少なくてもある程度の効率化が期待できることは実証できました。
また、不動産投資専用の通帳を作成しておけば、その通帳の残高が基本的に事業から得られた全部のお金になり、資金繰りの管理が分かり易くなります。
極端な話、不動産投資専用の通帳の残高が0円にならなければ、その不動産投資は基本的にうまくいっている(継続できる)と言えます。
性格がおおらかであまり細かいことを気にしたくない人は、不動産投資専用の通帳を作成すれば、資金繰り表を作成するなどの細かい作業をしなくても、大まかに資金繰りを把握でき、不動産投資の継続性を判断できます。
通帳の数を最小限にする
融資を受けている金融機関とのお付き合いや少しでも振込手数料を安くしたいなどの思惑があり、不動産投資を続けていると、使用する通帳の数が増えてきます。
ただし、記帳(仕訳)の効率化を考えると、通帳が多いことは、かなりマイナスに働きます。
記帳(仕訳)の数は、通帳が何冊あってもそれほど変わりありませんが、いくつもの通帳に事業用の取引が散らばっていると単純に探すのが大変になります。
また、通帳の残高次第では、通帳間のお金の入出金を行わなければならなくなり、以下のような意味が全くない仕訳をすることになります。
A銀行の残高が不足したため、B銀行より100万円を振り込んだ。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金(A銀行) | 100万円 | 普通預金(B銀行) | 100万円 |
記帳(仕訳)の効率化を考えると、使用する銀行口座数自体を管理する(多くなったら一定期間使用していない通帳を外す)ことが良いことになります。
個人的な意見として、使用する銀行口座は2つ~3つで十分です。
内訳としては、以下の通りになります。
- 日常使いのネット銀行 1行
- 融資を受けた金融機関の口座 1行~2行
ネット銀行は振込手数料が安く、さらに銀行に行かなくてもインターネット経由で振込が出来てしまうため、日常の経費などを支払う口座としてすごく便利なので、基本的にこちらをメインに利用することになります。
さらに、ネット銀行は、入出金履歴をCSV(エクセルのようなもの)でダウンロードでき、会計システムに直接読み込ませて、記帳(仕訳)ができてしまうので、非常に便利です。
融資を受ける際に、お付き合いもあり、融資を受ける金融機関の口座を必ず作成することになるはずです。
そして、個人投資家の融資引き受け先としては、信用金庫・信用組合(規模が大きい場合は地方銀行の場合もあります)が順当です。
この融資を受けた金融機関の口座は必ず1行~2行残しておきましょう。
特に信用金庫や信用組合だと、追加融資の話だけでなく、補助金の話や節税対策に繋がる可能性がある共済の話(会社規模になった時がメイン)を聞けることも多いです。
不動産投資を機に、関係が出来た信用金庫や信用組合とは、積極的に関与していった方が不動産投資家にとってメリットが大きいです。
小口現金制度の採用
不動産投資を行っている個人事業主で「現金の管理」まできちんと行っている人はあまりいません。
ここで言う、「現金の管理」とは、会計システム(やよいの青色申告など)と実際の現金の残高の一致を確認することです。
プライベートの現金と事業用の現金を分けているケースが少なく、さらに会計システムの現金の残高はめちゃくちゃになっている場合が多いです。
この「現金の管理」を怠ると、交際費を支払い現金で支払った場合などの領収書の仕訳漏れが発生することが多く、後々調査して計上すると調査時間だけ記帳業務が長くなります。
前提条件として、後で説明するクレジットカードやデビットカードを利用して現金取引自体を少なくすることが必要ですが、それでも現金取引の機会はなくなりません。
そこで、小口現金制度を採用することを勧めています。
小口現金制度とは、20万円程度の「一定額」を手元に置いておき、使用した時は領収書を残すだけで、月末に使用した金額を補給する制度です。
こうしておくと、月末の会計システムの数値と事業で保管している実際の現金がともに20万円となり、齟齬が生じることがなくなります。
仮に齟齬が出た場合、齟齬が出た月の領収書を見直すだけでよくなり、記帳(仕訳)の時間がだいぶ短くなります。
なお、小口現金制度の月末残高は20万円でなくてもよく、今まで月々に支払った金額の最高額を設定しておけば、基本的に小口現金が不足したという事態がないため安心です。
現金取引と書きましたが、不動産投資家がお金を「貰う側の」現金取引は原則しないようにしましょう。お金を貰う側の現金取引は、収益(売上高など)取引になり、これが抜けていると本来払うべき所得税が少なくなっているため、税務調査時にきつめの対応を取られることが多いです。家賃の受取りやその他イレギュラーな入金でも必ず銀行口座に振り込んでもらえるようにしましょう。
会計システムの使い方について
会計システムとは、やよいの青色申告、freee、マネーフォワードなどの記帳(仕訳)を行う上で必要な会計ソフトのことです。
会計システムの代わりにエクセルで仕訳を作成している人もいますが、費用対効果を考えると、会計システムを導入することを強く強くお勧めします。
1万円ぐらいの支出で、エクセルの仕訳でよく問題になる貸借のバランスが合わないという事態が避けられるのは、非常に優秀です。
さて、会計システムの使い方ですが、事前にデータで処理できるものは、必ずデータで処理するという大原則だけは覚えておいて欲しいです。
仕訳を行う時に紙とデータのどちらでも入手出来る証憑書類が多いのですが、データで貰うと記帳(仕訳)時間が激減します。
実際に会計システムにデータで処理する証憑書類は以下の3つになります。
- 通帳の入出金データ
- クレジットカード・デビットカードの取引データ
- 領収書の写真やPDF(クレジット・デビットカードの取引除く)
通帳の入出金データは、ネットバンキングを利用していれば、無料でCSVデータ(エクセルデータのようなもの)をダウンロードできますので、そのデータを会計システムに読ませると自動で仕訳を作成してくれます。
クレジットカード・デビットカードの取引データも、無料でCSVデータをダウンロードできますので、こちらも会計システムに読み込ませると自動で仕訳ができます。
接待交際費などの領収書は利用したお店がその場で発行してくれますが、この領収書をご自身のスマホで写真に撮ると自動的に仕訳を作成してくれる機能が会計システムにはあります。
ただし、領収書を写真で撮るのは、ご自身のクレジットカードやデビットカードを利用したもの以外に限定してください。
クレジットカードやデビットカードで支払った取引の領収書はクレジットカード・デビットカードの取引データのCSVと重複してしまうので、領収書をもらった段階では除外します。
クレジットカード・デビットカードの使い方
必要経費の支払い時には、クレジットカード・デビットカードを使いましょう。
クレジットカード・デビットカードは、取引明細がCSV(エクセルのようなもの)で入手できます。
このCSVを会計システムに読み込ませれば、自動で記帳(仕訳)をしてくれるので非常に便利です。
ただし、クレジットカード・デビットカードは、不動産投資専門のカードを作ってください。
取引明細の中に私用な取引が含まれてしまうと、会計システムに取り込んだ後、不要な仕訳を消さなくてはならなくなり非常に手間どります。
また、一番最初に説明した不動産専用の通帳からクレジットカード・デビットカードの引き落としがされるようにしておけば、更なる記帳の効率化が出来ます。
まとめると、新規でも既存でもどちらでも良いので、1枚不動産投資「専用」のクレジットカード又はデビットカードを用意して、不動産投資専用の銀行口座から引き落とせる体制を整えると、記帳の効率化がかなり図れることになります。
領収書の整理の仕方
領収書の整理の仕方については、決まりはありません。
一番厳格に行うとすると、ノートに領収書を張り付けて、領収書の上に連番の番号を振ります。
そして、その連番の番号と会計システムに入力する伝票NOが一致するように仕訳を入力していくことになります。
しかし、このやり方は非常に手間がかかり、個人規模の不動産投資家が実践するには無理があります。
そこで、最低限のやり方を紹介します。
まずは、紙ファイルを2冊用意してください。
1冊は現金で支払った領収書用の紙ファイルで、もう1冊はクレジットカード・デビットカードで支払った領収書用の紙ファイルになります。
そして、それぞれの紙ファイルにクリアポケットを12枚ずつ挟んでください。
このクリアポケット1つに1か月分ずつの領収書を入れていくことになります。
個人の不動産投資家の期首は1月1日から始まるので、12月31日の期末が終了した時点で12枚のクリアポケットに領収書が溜まっていることになります。
そして、現金で支払った領収書用の紙ファイルの中にある領収書が会計システムに入力されていれば、記帳(仕訳)作業は完了になります。
クレジットカード・デビットカードで支払った領収書の紙ファイルに対する作業は不要になります。
クレジットカード・デビットカードの取引明細のCSVのデータを利用し、すでに記帳(仕訳)が終わっているからです。
ただし、クレジットカード・デビットカードの取引明細はクレジット会社等が発行したもので、取引の相手先が発行したものでないため、税務署に対して取引の正当性を示す証拠書類となりません。
よって、クレジットカード・デビットカードで支払った領収書の紙ファイルを作業が不要なのに残すことで、税務調査時などに証拠書類として提出できるようにしておきます。
記帳をするタイミングについて
理想は、1か月に1回必ず記帳(仕訳)を行ってください。
ただし、個人の不動産投資家で1か月に10個程度の仕訳しかない場合は、3か月に1回の記帳(仕訳)でも問題はありません。
1年間溜めて記帳(仕訳)をする人がたまにいますが、取引内容を思いだすだけで時間がかかってしまい、記帳時間が膨大に伸びてしまいます。
なお、不動産賃貸業の場合、通常、月末に賃借人から家賃の入金があるはずなので、当月末締めの入出金を翌月10日に記帳(仕訳)すると良いでしょう。
例えば、5月1日~31日の入出金取引(通帳・クレジットカード・領収書)を6月10日までに行うイメージです。
コメント