自分の不動産投資経験と税理士として関わったクライアントの状況を踏まえて、不動産投資初心者のためのマニュアルを作成しようと思いました。
不動産業に携わるようになって約15年が経ち、自分以外の税務クライアントの事例もたくさん見てきているので、かなり実務的なマニュアルになると思います。
今回は、第9回目で不動産所得(個人の不動産投資)の節税対策について説明していきます。
月次で記帳を行うことの重要性について
不動産所得(個人の不動産投資の利益)に対する節税対策は、期末日(12月31日)を過ぎてしまうとできる手段がほぼなくります。
一方で、不動産投資は、賃借人から月々の家賃を貰うことがメインの収入になるので、売上の予測が立てやすく、1年間の不動産所得については、期中である程度把握出来てしまいます。
よって、不動産所得に対する節税対策は、期中(毎年1月1日~12月31日)の間に行うことが原則になります。
ただし、節税対策を行うためには、期中で売上や必要経費の総額を知ることが必要になり、月次で記帳(仕訳のこと)が完璧に出来ていることが重要になります。
期末にどれ位の不動産所得(利益)が残るかを正確に見積もれないと、どこまで節税対策を行うかの判断が出来なくなるためです。
節税対策を行うための記帳の具体的スケジュールですが、1月~9月末までの記帳(仕訳)が10月下旬までに終わっているようにしましょう。
節税対策の実行は、長いもので2か月程度かかるので、今年どれくらい不動産所得(利益)が出るかの予想を10月末までに終わらせていないと節税対策が間に合わない可能性があるためです。
なお、節税対策を実行する段階では、1月~9月末までの記帳しか済んでいないので、10月~12月までの売上や必要経費を見積もって最終の不動産所得(利益)を予想することになります。
前年度の10月~12月の売上や必要経費の実績を参考にすれば、今年の10月~12月のある程度正確な見積りはできるはずです。
不動産所得の節税対策の種類について
不動産所得の節税対策には、①納税額自体を減額するもの(税額の控除)と、②納税額を翌期以降に繰り延べるもの(税額の繰延べ)があります。
加えて、①お金を払う節税対策と、②お金を払わない節税対策があります。
つまり、不動産所得の節税対策の種類は以下の4つのパターンがあります。
- 税額の控除・お金を支払う
- 税額の控除・お金を支払わない
- 税額の繰延べ・お金を支払う
- 税額の繰延べ・お金を支払わない
税額の控除・お金を支払う
税額の控除・お金を支払うものの代表例に小規模企業共済や賃貸住宅修繕共済の掛金があります。
小規模企業共済は、退職金を貯めるための共済ですが、毎年の掛金は小規模企業共済等掛金控除として所得控除の対象になります。
つまり、払った金額分だけ税額の控除が出来ることになります。
小規模企業共済の掛金の最大は年間84万円なので、簡単に言うと84万円の必要経費を計上したのと同じになります。
賃貸住宅修繕共済は、建物の外壁や屋上防水工事等の大規模修繕に備えるための共済です。
賃貸住宅修繕共済の毎年の掛金の支払額は必要経費に計上できます。
細かい条件が不動産投資家のニーズに合うか要検討になりますが、1棟当たり年間で12万円~144万円の掛金が支払えます(=必要経費に計上できます)。
税額の控除・お金を支払わない
税額の控除・お金を支払わないものの代表例に青色申告特別控除があります。
青色申告特別控除は、青色申告の届出を提出し、適切な経理処理で記帳を行っている事業者に認められた税額の控除です。
青色申告特別控除は最大で1年あたり65万円まで税額の控除が出来ますので、必要経費が65万円増えたのと同じ効果があります。
税額の繰延べ・お金を支払う
税額の繰延べ・お金を支払うものの代表例に短期前払費用の特例があります。
地震保険料や火災保険料などの前払費用は、期間分割され、期間に応じて必要経費に計上されます。
例えば、火災保険料を5年分前払で払っても今年の必要経費に計上出来るのは、1年分だけです。
しかし、重要性の低い前払費用で、一定の要件を満たすものは、支払った日に全額必要経費に計上できます。
例えば、事務所の家賃を1年分前払したら、月額按分せずに払った金額を丸々必要経費に計上出来ます。
税額の繰延べ・お金を支払わない
税額の繰延べ・お金を支払わないものの代表例に固定資産の減価償却費があります。
厳密には、固定資産購入時にお金を支払っていますので、2年目以降の話しになります。
固定資産は購入した年度に取得価額全額が必要経費になるのではなく、耐用年数という決められた年数で徐々に必要経費に計上されていきます(減価償却といいます)。
よって、2年目以降は、お金を支払っていないのに、必要経費が計上できるため税額の繰延べ効果が生じます。
不動産所得の節税対策の順序について
最後に、節税対策の順番について考えていきます。
税理士事務所で私が税務相談を受けた時に、お客さんに「この順番で節税対策の考えてください」とお願いしている順番を紹介します。
全部で7つのステップ形式で紹介していますが、ステップ4とステップ6は、条件が当てはまればかなりの節税対策になりますが、条件自体が難しいので特に慎重に検討してください。
青色申告特別控除の利用(期首)
青色申告承認申請書をまだ提出していない場合、期首から2カ月以内に提出することを検討してください。
青色申告承認申請書を提出して、簡単な要件を満たすだけで、青色申告特別控除が65万円(事業的規模以外の場合は10万円)受けられます。
簡単に言うと、65万円(事業的規模以外10万円)の必要経費が増えたことになります。
なお、事業的規模とは戸建てで5棟以上、アパートやマンションで10室以上所有しているかどうかのことです。
小規模企業共済に加入(期中)
事業的規模(戸建てで5棟、アパートやマンションで10室以上)で不動産を所有の場合、小規模企業共済に加入しましょう。
その年の支払額全額が小規模企業共済等掛金控除(所得控除)の対象になります。
掛け金の支払いは、年間で84万円まで出来るので、小規模企業共済等掛け金控除は年間で84万円まで受けることができます。
簡単に言うと、年間84万円まで必要経費を増やせることになります。
なお、小規模企業共済は、事業者の退職金を貯めておくための共済なので、事業者が退職する場合に、お金は返ってきます(掛け捨てではない!)。
今後の不動産事業で必要な物の購入・必要な工事の実施(期中)
月次で記帳(仕訳)をきちんと行っていれば、10月の途中で年度の不動産所得(利益)の予想が出来るはずです。
予想が出来て黒字見込みなら、今後の不動産事業で必要なものを購入していきましょう。
また、必要な修繕工事などを前倒しで実施してしまいましょう。
ここで大切なのは、必ず「必要な」物の購入や「必要な」工事の実施です。
不要な物を購入したり、不要な工事を行うと節税額以上にお金が出ていくだけなので、必要か不要かの線引きが重要になります。
きちんと記帳をすれば、前倒しで物を購入したり工事をしたりして、必要経費を積み上げることが出来るので、かなり効果が高い節税対策になります。
短期前払費用の特例の利用の検討(期中)
短期前払費用の特例とは、必要経費の前払分のうち、支払日から1年以内に役務提供を受けるものについて、支払った事業年度に一括で必要経費計上ができるというものです。
不動産投資家が短期前払費用の特例を利用できそうな支払については、①火災保険料・②事務所の家賃・③駐車場の賃料です。
ただ、火災保険料は5年分で支払った方が総額がお得になることが多く、事務所の家賃や駐車場の賃料などはそもそもない場合も多いです。
そもそも、過度な期待をせずにあればラッキー位の考えで短期前払費用の特例の適用条件に当てはまる費用を探してみましょう。
保険の検討(期中)
不動産投資家が①生命保険料、②介護医療保険料、③個人年金保険料を支払った場合には、それぞれで最大4万円(住民税は2.8万円)までの所得控除を受けることができます(生命保険料控除)。
生命保険料、介護医療保険料および個人年金保険料のそれぞれで生命保険料控除は利用できるため、最大で12万円(住民税は7万円)まで所得控除を受けることができます。
また、不動産投資家が支払った地震保険料は最大で5万円(住民税は2.5万円)まで所得控除を受けることができます(地震保険料控除)。
なお、火災保険料控除というものが昔はありましたが、現在は廃止されていますので、火災保険料は所得控除の対象にはなりません。
注意点としては、地震保険料は投資用不動産の地震保険料ではなく、マイホームの地震保険料が所得控除の対象になります。
投資用不動産の地震保険料(こちらは火災保険料も)は、不動産所得の必要経費になりますので間違えないようにしましょう。
賃貸住宅修繕共済の加入の検討(期末日まで)
賃貸住宅修繕共済は、投資用不動産の大規模修繕工事の費用に備えるための共済で、国土交通大臣の認可を受けています。
賃貸住宅修繕共済では、建物の外壁や屋上防水工事等の大規模修繕に備えることができ、さらに毎年の掛金の支払額は全額必要経費に計上できます。
①掛け捨ての保険(工事しなくても掛金は返ってこない!)なのと、②大規模修繕工事の場合に工事業者が選べない(割高な工事代金になる可能性がある)という条件もありますが、ニーズが合えば、加入すると節税効果は高いです。
なお、1棟当たり年間で12万円~144万円の掛金が支払えます(=必要経費に計上できます)。
法人化の検討(期末日まで)
上記ステップ1~6まで行ってもまだ課税所得(所得税率をかける利益のこと)が500万円以上残る場合は、法人化を検討した方が良い事例になってきます。
法人化し、法人と個人で課税所得を区分すれば、節税対策を行うことができ、さらに法人にしか入れない共済や保険もありますので、恒常的に課税所得が500万円以上残る方は法人化を検討してみてください。
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