借家権とは
借家権とは、建物の所有者から、一定期間、その建物を借り入れて使用する借主(入居者)側の権利のことです。
具体的には、住宅や店舗、事務所などを借りる場合で、借りる人を賃借人、不動産の所有者を賃貸人といいます。
借家権は、建物賃貸借契約に基づいて発生します。
建物賃貸借契約の内容によって、賃貸の期間や家賃、修繕責任、更新条件などが定められます。
なお、似た言葉に借地権というものがあります。
借地権とは、土地の所有者(地主)から、一定期間、その土地を借り入れて使用する借主(借地人)側の権利のことです。
借主(借地人)は、借りた土地の上に建物を所有して土地を利用することになります。
借家権は建物を借りる権利、借地権は土地を借りてその上に建物を所有する権利!
普通借家権・定期借家権の内容
借家権には普通借家権と定期借家権の2種類があります。
もともとは普通借家権しか存在しませんでしたが、賃借人の過度な保護制度を是正するために、平成12年(2000年)3月1日に定期借家権という新しい借家権が施行されました。
なお、普通借家契約(普通建物賃貸借契約)を締結すると普通借家権が設定され、定期借家契約(定期建物賃貸借契約)を締結すると定期借家権が設定されます。
普通借家権
普通借家権は、文字通り、借家権の中で一般的なものです。
普通借家権の契約期間は原則として1年以上(2年が多い)とされ、賃貸借期間が満了すると、契約を更新するかどうかが賃借人と賃貸人の間で話し合われます。
賃貸人側からの契約更新の拒絶は正当な事由がないとできませんので、賃借人が契約の更新を要望すれば、普通借家権は基本的に継続します。
なお、正当な事由は以下の事情を考慮した上での総合判断になります。
- 賃貸人の建物使用を必要とする事情
- 賃借人の建物使用を必要とする事情
- 従前の経過
- 建物の利用状況
- 建物の現況
- 立退料の申し出
例えば、再開発や建物の老朽化で立退料を払う場合などは、正当な事由に該当することが多いです。
普通借家契約で、契約期間が1年未満の契約は、契約期間の定めがない契約とみなされます。「期間の定めがない」契約ですが、賃貸人側から解約の申し入れをするためには、正当な事由が必要になり、さらに解約の申し入れ日から6か月は解約できません!
定期借家権
定期借家権とは、あらかじめ契約期間が定められた建物の賃貸借契約です。
また、定期借家権には、契約期間の縛りはありません。
例えば、短期的な転勤で、半年や1年マイホームを空ける場合などに、短い期間で定期借家権を設定することも可能です。
定期借家権は、ある一定時点で賃貸人に建物が戻ってくることを前提としているので、契約期間が経過した後の更新もありません(ただし、賃貸人が許可した場合は再契約ができる)。
あらかじめ更新がない旨を定期建物賃貸借契約書と事前交付書面に記載し、定期借家契約を締結することになります。
定期借家契約が締結されると、定期借家権が設定されたことになります。
定期借家契約は、必ず書面(公正証書でなくてもOK)で締結することが義務付けられています。
なお、定期借家契約を締結するためには、賃貸人が、定期建物賃貸借契約書とは別の事前交付書面を交付して、あらかじめその内容を説明しなければなりません(借地借家法38条2項)。
ただし、賃貸人が事前交付書面の内容を賃借人に説明するのはかなりハードルが高いので、代理権がある仲介の不動産屋が事前交付書面の内容を説明することも可能です。
なお、注意が必要なのは、不動産屋が行う宅地建物取引業法35条の重要事項説明と借地借家法38条2項が定める事前説明の目的は異なるので、なるべく一緒の書面にしないということです。
重要事項説明書の中に更新がない旨等の説明を入れて事前交付書面と一つにしてしまうこともありますが、これを否定する見解もありますので、実務的には、定期建物賃貸借契約書、重要事項説明書、事前交付書面の3通を用意している場合が多いでしょう。
重要事項説明とは、契約前に賃借人に対して宅地建物取引士が賃貸借契約の重要事項を説明することです。ここで交付される書類を重要事項説明書(35条書面)といいます。なお、重要事項説明書の中では、宅地建物取引士が定期借家権の内容を説明する義務はありません。もし、重要事項説明書の中で定期建物賃貸借契約の内容が説明されたならば、賃貸人の代理人として借地借家法38条2項の事前交付書面の内容を説明していると考えられます。
普通借家権と定期借家権の違いについて
普通借家権と定期借家権の違いは以下の4点になります。
- 契約期間を自由に設定できるかどうか
- 中途解約ができるかどうか
- 契約期間満了後更新ができるかどうか
- 賃料を高く設定できるかどうか
契約期間を自由に設定できるかどうか
普通借家権は、1年以上の契約期間を設定して賃貸借契約を行う必要があります。
もし、1年未満の普通借家契約を締結してしまった場合は、期間の定めのない賃貸借として処理され、賃貸人・賃借人ともにいつでも解約の申し入れができ、申し入れ日より3か月を経過することにより借家契約は終了します。
ただし、賃貸人からの解約の申入れには正当な事由が必要になります。
定期借家権は、契約期間の制限がありませんので、1年未満の契約も有効になります。
なお、1年以上の定期借家権を設定した場合、賃貸人は契約期間満了の1年前から6か月前までに賃借人に対して契約終了の通知をする義務があります。
この義務を怠ると契約期間満了までに賃貸人から賃借人に対して退去をお願いすることができなくなります。
中途解約ができるかどうか
普通借家権は、普通建物賃貸借契約の中に中途解約の条項が含まれており、賃借人はその条項に沿えば、いつでも中途解約が可能になります。
なお、賃貸人が中途解約をしたい場合には、正当な事由が必要になります。
定期借家権は、賃貸人・賃借人どちらも中途解約をすることは基本的にできません。
ただし、賃借人に中途解約するやむを得ない事情(転勤、療養、親族の介護など)がある場合は、賃借人からの解約は可能です。
契約期間満了後更新できるかどうか
普通借家権は、賃借人が希望すれば基本的に契約期間満了後更新ができます。
一方、定期借家権は、契約期間が満了した後、更新できない旨があらかじめ決められているため、更新はできません。
ただし、賃貸人と賃借人双方の同意があれば、新たに再契約を締結することができます(家賃等の契約の諸条件は再契約時に変わる可能性があります!)。
賃料を高く設定できるかどうか
賃借人が、建物を利用できる期間を選ぶ権利を得られるため、普通借家権の方が定期借家権に比べて賃料が高くなると言われています。
建物の立地や構造など同じ建物は2つとないので、普通借家権と定期借家権で賃料がどの位変わるかを比較することはできませんが、周りに似たような普通借家権を設定できる建物がある場合、条件が不利になる定期借家権を選択する賃借人はいません。
需要と供給の問題になり、周りの建物との競合具合により異なりますが、賃借人の需要度合いを考えれば、一般的に普通借家権の方が定期借家権より賃料が高くなる傾向にあるでしょう。
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